\ 後編 / 前庭水管拡大症当事者・耳鼻科医、デフリンピアン【吉田翔】の場合 難聴と向き合い、医師として歩む
ZENPE Peopleスペシャルインタビュー
前庭水管拡大症やペンドレッド症候群を抱える方、
ご家族に贈る新シリーズがスタート!
毎回、当事者の心揺さぶるインタビューを通じて、
当疾患と共に生きるリアルな日々を届けます。
撮りおろしの写真で、その人らしい輝きや想いに触れ
同じ悩みや不安を抱えるあなたに、
未来へのヒントを届けられたら嬉しいです。
プロフィール
人物

吉田翔さん
- 1984年6月生まれ
- 現年齢 41歳
症状
- 前庭水管拡大症
- 左耳:補聴器 右耳:人工内耳
- 耳鼻咽喉科専門医
履歴
- 聾学校幼稚部(年中のみ)
- その後地域の幼稚園に通園
- 小・中・高 普通級
- 医大卒
聴力
- 難聴発覚時(3歳)
- 両耳:100dB以上
- 現在
- 両耳:100dB以上(左耳の方で低音域が少し残っている程度)
Index
目次
EP.6
耳鼻科医の使命へ。医療現場での挑戦と成長
EP.7
当事者であり医師であること
EP.8
初めての聴力変動と人工内耳への決断
EP.9
実践とケアのポイント
EP.10
子供たち、保護者の方へのエール
前庭水管拡大症当事者・耳鼻科医、デフリンピアン【吉田翔】の場合
‐後編‐

前編のあらすじ
前庭水管拡大症を持ち、難聴と向き合いながら耳鼻科医として歩む吉田先生。3歳で先天性難聴(両耳100dB以上)、36歳で前庭水管拡大症と確定されました。インクルーシブ教育の環境で育ち、聴覚障害者との接点が少ない中、努力と工夫で医療者としての使命を築きました。後編では、研修医時代の苦労と、耳鼻科医としての成長を振り返ります。
Interview
‐後編‐ 難聴と向き合い、医師として歩む
EP.6.耳鼻科医の使命へ。医療現場での挑戦と成長
立ちはだかる壁
研修医として医療現場で働き始めると、いくつもの壁にぶつかりました。インクルーシブ教育を受けてきた私は、聴覚障害者との交流がほとんどなく、聞こえの壁をどう解決したら良いのか分からず、相談相手もいませんでした。
一部の指導医はゆっくり話したり、マスクを外したりして、聞き取りやすい環境を作ってくれました。しかし、ボソボソ話す指導医の声は聞き取れず、聞こえたふりをしてしまうこともありました。周囲に誰かいれば内容を確認できましたが、カンファレンスは特に大変でした。
当時、補聴援助システムを知らなかったため、議論はほぼ聞き取れませんでした。自分の症例発表の質疑応答では、質問を何度も聞き返すことに。ある程度質問を想定して答えを準備しているのですが、聞き取れないためそれにも答えられず、もどかしさが常にありました。発表に時間がかかり、「面倒がられているのでは」と不安と申し訳なさを感じながら、仕事についていくのに必死で解決策を考える余裕もありませんでした。
医療側に相談しても納得のいく回答は得られず、試しに文字起こしツールを導入しましたが、専門用語や話し方の癖で誤字が多く、実用的ではありませんでした。当時は精度が低かったものの、現在はデジタル化が進み、精度が大幅に向上しています。

チームの力、セルフアドボカシーの実践
2年間の初期研修を終え、長崎大学病院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科に入局後、【セルフアドボカシー】(必要な支援を、自分自身で理解し、他者に伝え行動する力)というキーワードを知りました。
その後セルフアドボカシーを実践し、医局の先生方がさまざまな対策を考えて下さり、初めて補聴援助システム「ロジャー」を導入しました。完璧ではないものの、聞き取りやすさが大きく改善しました。
外来や病棟では、患者様の話が聞き取りにくい場合、看護師や医療秘書に確認し、聞き間違いがあればスタッフが訂正してくれる体制が整いました。PHSでの会話では、特に初耳の薬名など聞き取りにくいので、復唱し相手に確認してもらうようにしています。手術中は、聞きやすい指導医の声は直接捉えますが、聞こえにくい場合は指導医の胸ポケットにロジャーオンを装着してもらい、明確に指示を聞けるように工夫しています。このようにセルフアドボカシーの実践をすることで、環境をより良くしていけることを実感しました。
こぼればなし・・
聴覚障害者の目覚まし問題!
セルフアボカドシーの一環として親元を離れて生活する事を想定し、早い時期から朝の起床方法を見つけておくことも大切です。以下に一例をあげますが自分に合った方法を見つけるために、実際に試してみましょう!
- ①ベッドシェーカー:ベッドを振動させて起こしてくれる装置
- ②振動する腕時計:手首で振動を感じて起床を促す
- ③ライト付きデバイス:設定時間に光で知らせるタイプ
など様々あります。私の場合は病院の当直時に補聴器を装用したまま就寝し、PHSの呼び出しにすぐ対応できるようにし、夜中の呼び出しはApple Watchで対応しています。昔は補聴器を外して寝ていたので、PHSを靴下に入れ、手にはめて固定する工夫をしていました。これなら寝返りを打ってもPHSがどこかに行かず、振動で確実に起きられました。他の聴覚障害を持つ医師の同僚は、PHSの着信を携帯に転送し、Bluetooth経由で補聴器に直接音を届けるというスマートな方法で対応していました。それぞれの工夫で、医療現場の責任を果たしています!
写真:吉田先生提供




