おっさん、補聴器を買う2「Phonakインフィニオ」を試聴
補聴器を買うおっさんの独り言
- ※本記事は、前庭水管拡大症・ペンドレッド症候群の当事者である一ユーザーが、自身の生活実感に基づいて執筆したものです。 記載されている製品の性能や価格に関する情報は、執筆時点での個人の調査および主観に基づくものであり、メーカー公式の見解や医学的根拠を保証するものではありません。あらかじめご了承ください。
- ※当会では、特定のメーカーを推奨するものではありませんが、こうしたユーザーの生の声が、これからの聴覚支援技術の発展や普及に繋がることを願っています。
補聴器を買い替えるぞと決意した私、でもどうせ買うなら世界最高のモノをまずは試聴してみたい。
そこで色々と調べたところ、「Phonakオーデオ インフィニオ スフィア 90」が、2026年2月時点で世界最高と評価されていることが分かった。このインフィニオ、さすが世界最高とだけあってお値段は片耳でなんと70万、両耳で140万である。車が買えるじゃないか。

早速行きつけの補聴器屋に行き、その140万のやつを二週間程貸してくれと頼み、クラス90を一週間、次いでクラス70を一週間と計2週間借り受けることになった。
ちなみに「インフィニオ」とは基本システムのことで、スマホで言えばAndroidやiOSなどのプラットフォームを指す。そして「スフィア」は何回カタログを見ても把握が困難なのだがどうやら機種名のことらしい。現在、このインフィニオスフィアにはAIチップが2つ「ERA」と「DEEPSONIC」が搭載されているという。そして、インフィニオには下記のクラスがある。数字が大きいほど上位となる。
90:プレミアム
70:アドバンス
50:スタンダード
30:エッセンシャル
インフィニオの目玉であるAIチップを搭載しているのは、上位の90と70のみであり、公式では下記の様に説明している。
90(プレミアム): 最強のAIパワー。SN比を最大10dB改善。静かな場所での小さな声を助ける「スピーチ・エンハンサー」もフル搭載。
70(アドバンス): AIチップは搭載しているが、「スピーチ・エンハンサー」などの一部の機能が非搭載、または制限されている。
90はAIゴリゴリのフルパワー状態で、70はAIの介入がマイルドになっているということだ。
さて、最初はクラス90だ。
プレミアムだ。
140万だ。
まず第一に感じたこと、それは「140万のAIはすごい!」ということ。
けど、これってどうなの?と感じる部分もあった。
まず見た目から

とチャージャー
補聴器の見た目は重要だ。補聴器単体だけでなく、補聴器を装着した際の印象も含めて重要だ。
何に対して比較するかにもよるが、初見で「おっきいなー」と私は感じた。手に持つとずしりと重量感もある。

右:Phonakインフィニオ

右:Phonakインフィニオ
Phonakインフィニオは90も70もAIチップを2つ搭載する都合上、かなり大きい。今回、私が長年愛用しているOticonオープンと比較することになるが、その大きさは明白である。長さは特段気にならないが、幅と厚みがかなり増す。私の耳輪からはひょっこりとはみ出してしまう。重さは装着してしまえば気になることはなかった。
しかし致命的なのがメガネとの相性だ。私は黒縁メガネを掛けていて、このメガネとPhonakインフィニオを同時に装着すると、なんとまぁ…耳の上が非常に混雑した印象になってしまう。フレームの細いメガネを選択すれば問題ないと思うが、私の流行りは黒縁メガネである。残念だ。


おっさんの耳元で本当に恐縮だが、良かったら画像を参照して欲しい。
もじゃもじゃムダ毛多くてすみません。
騒々しい体育館にて本領発揮
とあるスポーツ大会に息子が参加するため、付き添いで市の総合体育館に行ったのだが、そこでPhonakインフィニオは大きな働きを見せてくれた。

AdobeSTOCK
この様な環境は普通の補聴器にとってかなり酷な状況であり、私の10年来の相棒であるOticonオープンはいつも惜敗している。聞きたい声が跳ね返らずにどこかに逃げていくのに、その他の要らない雑音だけあちこち反響してやたらうるさい環境だ。隣にいる妻の声も良く聞き取れない。
そんな状況下において、Phonakインフィニオは効果的に働いてくれた。「全方位からのことばの明瞭性2.0」というAI制御による機能が搭載されており、大変騒がしい中でも雑音をキレイに除去することが可能とされている。数値的には声(Sound)と雑音(Noise)の差を表す「SN 比」が最大10.2 dBとのこと 。事実、この機能が自動で働き、周囲あちこちの会話を自動で判別し、くっきりと浮かび上がらせてくれたのだ。
この機能は大変強力だった。
ただ、これを良しと捉えるかどうかは次を読んで判断して欲しい。
上記機能の実際の聞こえ方を文章化してみようと思う。例えば私と妻が会話をしている際、後方と前方で違う家族が我々と関係なく話しをしているような普通のシチュエーション。
妻「息子くんは次のグループかな。」
A家族「頑張ってね。みんな大変だね。」
B家族「ちょっとトイレ行ってくる。でもそろそろ出場かも。」
まあ、例として上記の様な会話が同時刻に別箇所で行われていたとすると、これらが下記のように連続で聞こえる。
「ぅすこくんは次の」 「「ぃんな大変だね。」 「ぉろそろ出場かも」
と、途中で妻の声が削られ、関係ない第三者の声を拾ってくるのだ。しかも、距離感も方向も均一化されるので、これらの会話がすぐ近くに聞こえる。この機能は自動でシームレスに突然発動するため、大変びっくりする。知らない人が突然耳元で話しかけてくる、そんな感覚であった。そして、会話の連続性が無視されてしまう。どの声を届けるのかはAIが自動で判断してしまうので、結局のところ、本当に聞きたい声を削ってしまう。
フードコートでもすごい威力
上記とは別の機会、このスポーツ団体の保護者同士で練習後にとあるショッピングモールのフードコートで会議が行われた。しかも隣がゲームセンターである。非常に過酷な環境だ。

AdobeSTOCK
テーブル席を2つ作り、片方は保護者、片方は子どもたちが座った。私は妻と一緒に保護者グループに参加したのだが、AIはやはり個々の言葉を明瞭に拾ってくれる。会議に関係ない子供たち同士の声も拾ってくれる。声を切り捨てられた人は口がパクパクしているだけになる。
すごい。
突然、子どもたちの一人が凄まじい咳をした。ゲボォ!ゲボォ!と。聞いたことのない音量での咳だったため何か詰まらせたかとひどく慌てたが、周囲の人間はケロッとしている。どうやらAIが咳を大げさにクローズアップしてしまった模様。
結果、個々の会話の断片がツギハギされた意味のない情報しか私には届かなかった。しかも個々の会話を拾う際、若干のタイムラグがあり、最初の一音が拾えない。そのため会話の取っ掛かりが聞こえず、理解が難しくなると感じた。私は会議への参加を諦め、子どもたちのサポートに回った。
環境が悪かった可能性もあるが、装用者がどの声を必要としているか、AIには判別が出来ないのが課題だと感じた。
車の中でも良く聞こえた
私が住んでいる場所はまあまあな田舎で、社会人であれば車を持っているのが当たり前の環境だ。そんな場所では車内の聴取能力について十分な検証が必要になる。
私の愛車はスバルフォレスター。どうでもいいかも知れないが、ターボ搭載ダブルマフラーがかっこいいガソリン車である。水平対向エンジンによるドコドコドコ・・・というボクサーサウンドが特徴的な車だ。そんな前時代的な車における車内の会話はなかなかに困難な状況に陥ることが多々ある。一般的な街乗りにおいては特にエアコンの音が気になり、時速80キロを超えるような高速移動時ともなると、更にロードノイズが襲いかかってくる。
そんな音の洪水の中で、果たして会話が可能なのか。
私の相棒、Oticonオープンは正直言ってこの様な環境にかなり弱い。家族みんなでどこかに出かける際、運転するのはほぼ私で、妻と息子は後部座席に座ることが多い。二人はまあよく喋る。学校の話、流行りのアニメや動画の話、ゲームの話と。そんな二人の会話は緩いスピードなら運転席でも聞き取れるが、エアコンが強めでちょっと車速の上がる国道に出たりすると、言葉がノイズに埋もれてしまう。
では、Phonakインフィニオはどうか。前述のフードコートや体育館のようなシチュエーションではなく、妻と息子の声だけしかない。邪魔な音はエアコンとロードノイズだけだ。そんな分かりやすい環境であればAIはきっと声だけを明瞭に浮かび上がらせてくれるだろう。
その効果は抜群であった。AI時代になり、システムはようやく声と雑音の分離に成功したとも言えるだろう。「雑音を抑制する機能」自体はAI以前のモデルもさんざ言ってきているが、そんなに期待するものではなかったのだ。
エアコンの音とロードノイズの中、妻と息子の声は良く届いてきた。素晴らしいと感じた。
更に追加検証として、一人仕事からの帰宅時に、エアコンの送風を最高にして、ラジオを流してみた。更にはスマホからyoutubeで見つけた「駅の雑踏音」を最大音量で流す。そんな状況でラジオの音が聞き分けられるかどうか。結果、雑踏やエアコンの音が見事に抑えられ、ラジオの音声が苦も無く聞き取れた。
完璧。素晴らしい。
Oticonオープンでもチャレンジしたが、全くラジオの音声は聞こえなかった。
会議室にて…あれ?っと
私も一応立派な社会人である。
会社ではいっちょ前に取引先と会議もする。
Phonakインフィニオを装着して臨む会議を2回経験した。
その内一つがリモートによるもので、相手の声はノートパソコンのスピーカー音声を聞く形であった。このスピーカーから出る音声というのはちょっと苦手なのだが、今回は問題を感じず、明瞭に聞き分けることができた。
そして、生の対面会議も経験した。前も会ったことがある気心知れた人と総勢4名の会議である。会議室は4畳半程で狭くOticonオープンでもよく声が聞き取れる環境である。
だが、その中で気づいた。
やべ、インフィニオ聞き取れない!と。
Oticonオープンの方が聞き取れたのだ。今回はなぜか会話が度々理解できない。モゴモゴと聞こえることがあった。なぜだ。しかも盛り上がりみんなが笑った瞬間になるとAIが雑音と解釈するのか、スーン…とうまく笑い声を消してくれた。結果、全然盛り上がれなかった。残念な結果であった。
インフィニオ90まとめ
PhonakインフィニオのAIによる「全方位からのことばの明瞭性2.0」は革新的な技術だと感じた。周囲の全ての音声を雑音からキレイに切り離し、くっきりと浮かび上がらせ耳元まで届けてくれる。それは非常に強力で、全方位からの声が遠近関係なく均等に聞こえる感覚がある。聴者にとって必要な情報かどうかはAIに全て委ねられる形となる。そのためフードコートなどで自動でこの機能が発動すると、非常に混乱する可能性がある。関係ない第三者の声が明瞭に耳元に飛んでくるのだ。眼の前の家族の声を聞きたいのに。もちろん、補聴器本体のボタンやアプリでそのモードに手動で切り替えることは可能であるから、利用シーンを選ぶと非常に有効だと思う。
例えば会議などが一番有効だろう。第三者の居ない空間で全ての話者の会話を聞きたい場合だ。ただし、遠近が圧縮されるため、誰が喋ったのか把握するのが困難になるかも知れない。
そして、インフィニオは指向性の機能も同時に有している。非常に騒がしい中において、正面からの音声のみを抽出する動きも見せてくれる。
これらの機能は一見すると相反する機能であるが、Phonakは「騒がしいが追随可能とAIが判断すると全方位の音声を拾い、それが困難となる更に騒がしい環境では指向性が働く」と説明している。
だが、実際の装用感としては、それらの機能が複合的に機能し、高速に切り替わるため、装用者としては混乱を招く形となってしまっていると感じる。
そして、静かな環境において聞き取りが困難になったシチュエーションがあったのが残念だった。会議中や、家族と自宅での会話である。恐らく、環境音を抑制する際に声の重要なパーツを強制的に削ぎ落としてしまうからだろうと推察している。本当にモゴモゴと聞こえ理解できない状況が多々あった。
ZENPEにとってはどうだろうか
さて、AIがゴリゴリに介入する音の世界に放り込まれることについて、私の疾患はどの様な反応を示しただろうか。
まず前提として、私たちの疾患は個人差があるかも知れないが、めまいを感じた際に、ツーンと音が遠のく感覚を経験する。
そして、それは逆も然り、私の場合であるが、補聴器の電源が切れる、ボリュームを下げる、雑音抑制が機能するなどで補聴器の音量が突然下がると、ふわーっとめまいを感じるのだ。そう、AIが雑音抑制を頻繁に行うお陰で、私は絶えずめまいを感じてしまい気分がだだ下がりになってしまったのだ。
今回のPhonakインフィニオの試聴において、これが一番悩ましいと感じた部分である。
クラス90から70に切り替えた
そうして、1週間後、今度はクラス70アドバンスを試聴した。
90から70へのクラス変更は本体を交換する必要がなく、店舗のソフトウェア上でクラス変更が可能とのこと。これは貸出機のみの機能で実際に販売される機種ではクラス変更はできない。
70に切り替えたところ、驚いたことに90で感じた声の聞き取りにくさが解消され、聞き取りやすくなっていた。
恐らくだが、聞き取りを補助するスピーチエンハンサー機能が90だと過剰に反応し雑音等も強調している可能性がある。そして、90の時に感じていたAI介入によるめまいの誘発も70ではさほど心配しないで済んだ。
これだ。これなら素直に受け入れられる。
そして、90で行った実験を70でもやってみた。
騒々しい体育館にて70はどうだろう
前回とは違う場所だが、騒々しい体育館での聞き取りを検証してみた。またもや息子のスポーツ大会があり、付き添いと撮影のために同行したのだ。
結果は相当に良好だった。
Oticonオープンでは、騒々しい場所ではほとんど隣の人の声も聞き取れない、マイクでの放送が響きまくり聞き取れない、など様々な問題があった。
Phonakインフィニオ70はこれらの問題点を見事に解消してくれた。子どもたちや大人同士の会話もある程度聞き取りが出来るようになり、マイクによる放送などは効果てきめん、変な残響音がキレイに消え、聞き取りが格段に向上した。
私は初めて、他の保護者やお世話になっている大会関係者と普通の会話を楽しむことができた。
今まではそそくさと妻の影に隠れることが多かったのだ。
車の中、70でもなかなか
妻と息子を後部に載せ、大会会場まで運転した。エアコンを効かせ、国道を走ればスピードも上がりロードノイズは増す。
そんな騒音の中であるが、Phonakインフィニオ70ではスムーズに会話が出来た。
Oticonオープンでは、しょっちゅう運転席側に身を乗りだしてくれる妻に対して、いつも申し訳ない気持ちになったものだが、今回の検証ではほとんど身を乗り出さずにいてくれた。しかも、私の肘掛けに足を乗せてくるというリラックス振りであった。
フードコートや会議室は未検証
残念、今回は検証する機会がなかった。
インフィニオは「すごい!」
その感想は「すごい!」の一言につきる。
補聴器ユーザーが長年に渡り訴えてきた「騒音下での聞き取りの困難さ」がかなり改善されているのだ。ただ、私にとってこれは初めてのAI補聴器であり、今装着しているOticonオープンは2016年に発表されたもので実に10年前の技術によるものだ。10年もの間、私は補聴器の進化について無頓着であり、完全に浦島状態であったことは付け加えておこう。
それにしてもAIによる雑音抑制は大変強力だ。音声がクリアに聞こえてくる。
90と70を比較したところ、90ではこれらAIによる介入が大変強く、70ではマイルドになる。音質の違いも感じられ、私は70の方が聞きやすかった。ただ、これらは複数回のフィッティングを経て解消していくものだと思う。購入を検討している方は実際に聴き比べてみるといいだろう。
そして、インフィニオの聞こえについて最大の懸念点を申し伝えておく。それは、AIの経験則に基づき音の引き算が行われてしまうこと。私が本当に聞きたい音声ではなく、AIが判断した音声が届いてしまう。これは90の時に顕著であった。
そうだ、妻ちゃんにもシェアしなきゃ
その晩、妻の足ツボを押しながら、ありったけの語彙力で妻にプレゼンした。

なぁ、なぁ、妻ちゃん。。
フォナックのインフィニオってのがなかなかすごいんだよ。
とにかくすごいんだよ。。
そんで、140万なんだけどさ…。
すると、妻は、

とりあえずツボ!集中して!
と、まあ、前向きに検討していただけるみたいだ。
その次はPhonakのライバルとも言える、OticonのAI補聴器「インテント」を借り受ける予定なので、そのレポートも期待して欲しい。